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共に過ごし学ぶ民族誌的フィールド調査
-北部タイ山地にて-

【多言語字幕あり(タイ語、インドネシア語、ベトナム語、フィリピノ語)】
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民族誌的フィールド調査で研究者は大きな問いをもって調査地に赴き、そこに暮らす人々と生活を共にする中で自分の様々な前提や当初の問い自体を考え直し、答えを模索し、さらなる問いを見出していく.本動画では北タイ山地カレン村落での調査について紹介する.

タイ山地の民族誌的フィールド調査から

「民族誌的フィールド調査」では、他文化を生きる人々がどのように生活し、どのような人間関係や経験のなかで何を考えているのか.その人々と可能なかぎり生活を共にし、言語を習得し、日々の生活や行事に参加し、相互関係のなかで対話をくりかえすことで少しでもその理解に近づこうとします.日々の生活のなかで驚きつつ自ずと自分自身の考え方、感じ方との相違が見えてきて、時には喜怒哀楽に巻き込まれながら、自他の往還を繰り返しながら考察します.そのようにして至った理解を、今度は他の人にわかるように理解の文脈となった生活から記述するのが「民族誌」です.

こうした他者とのつきあいは、時には何十年に及ぶことがあります.私が1987年から最初は長期(一年半)で、その後は断続的に訪れていたのが、この映像にある北部タイ山地の少数民族、「カレン」の村です.カレンの人々は、タイ国のマジョリティであるタイ系の人々とは、言語や文化が異なります.タイ国の全人口の0.5%ほどとされ、宗教はタイ系の人々と同じ仏教徒もいますが、キリスト教徒も多く、また精霊信仰の伝統もあります.山地少数民族は、平地に比べて貧しく、開発すべき人々として蔑視の対象でもあるなかで、どのように生活を営んでいるのか、タイという仏教を重んじる国にあって、異なる文化や宗教を生きることはどういうことなのか、というのが当初の問いでした.その後、30年間往復するなかで、自分自身も年を経て生活の変化を経験し、問いが少しずつ変化しました.特に女性や家族の生活、そして近年では高齢者のケアはどのようになっているのか、都市に出ていく人々が増えるなかで村でどのように共に生活しているのかということに関心をもっています.現代世界の生活変化の著しいことは、タイ山地でも同様です.そうした変化のなかで、人々がよりよい生活を求めていくときに、変わっていくものと変わらないものとを見極めていくことも、長期で調査地に関わる醍醐味です.

短い映像で調査者に焦点をあてているため村の人々の声をご紹介できませんでしたが、今回このビデオを撮影していただき、民族誌の文章でとらえられない村の景観や人々の表情がとらえられたことはとてもうれしくありがたいことでした.

速水 洋子(京都大学東南アジア地域研究研究所)

所属等の情報は、動画撮影時のものです。

もう少し深く知りたい方への文献紹介

(1) 速水洋子 『差異とつながりの民族誌:北タイ山地カレン社会の民族とジェンダー』世界思想社、2009年.
長期にわたる山地カレン社会における調査に基づいて、特に民族という差異とジェンダーの差異が、カレンの女性たちにとってどのような経験なのかを問うています.

(2) 速水洋子「カレンとは誰か-エコツーリズムにみる応答と戦術としての自己表象」窪田幸子・野林厚志編『先住民とはだれか』世界思想社 2009年. 248-272頁.
カレンの人々自身が少数民族としてどのように自分たちから発信していくのかを、この映像のフィールドとは異なる地域で調査したものです。

(3) やまもとくみこ 『ムがいっぱい―タイ少数民族カレンの村で』 農山漁村文化協会(人間選書) 1990年.
文化人類学者、吉松久美子氏によるフィールド・エッセイ.楽しく味わいのある文体で、カレン社会でのフィールド調査経験をつづる.

(4) 佐藤郁哉 『フィールドワークの技法』 新曜社、2002年.
民族誌的フィールド調査とはどういうものかに関心のある方、異国に行かなくてもフィールド調査はできます.暴走族や現代演劇といった近くの世界でフィールド調査をした著者の読みやすいフィールドワークの「どうやって」をわかりやすく論じている.

(5) 西井凉子編 『人はみなフィールドワーカーである―人文学のフィールドワークのすすめ』東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所、2014年.
ベテラン人文系フィールドワーカーによる短文集で、フィールドワークの楽しさ、苦しさ、失敗談や発見譚を語る.

この(4)(5)以外にもたくさんのフィールドワーク論があります.

本ページの内容は、京都大学東南アジア地域研究研究所ニューズレター記事としても収録されています。該当記事はこちらです。

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