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「戦跡」から歴史と未来を考え感じる

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明治時代以降の日本は、じつは現在にいたるまで、直接間接に対外戦争にかかわってきました。しかし、それら戦争の実態はしばしばベールに覆われており、情報にアクセスすること、ましてや残された史資料からそれを理解することは容易ではありません。戦争がいつ、どのような状態ではじまり、どういう形で参与し、そしてそれがどのような形で終了したのかさえ、わかっていないことも多いのです。しかも、戦争を直接に経験された方々も少なくなりつつあり、当事者に向けたオーラルヒストリー(口述歴史)の聞き書きが困難になるのも時間の問題となっています。

実際のところ、私たちは身近にある「戦跡」や戦争モニュメントをみても、身近な問題と考えることができなくなっています。8月15日=「終戦記念日」がメディアイベント化して、新聞やテレビ報道でも共鳴する世代も減少しています。

しかしながら、戦争にまつわる記憶や記録をおろそかにすることは、必ずや将来に禍根を残すことになると思います。軍事的前線、前哨基地、後方支援を掌る兵站地、戦争の支援や協力をする国内各地、この循環がいつ逆転するかわからないのは、戦時中の空襲などを見てもお分かりかと思います。

いま私たちに求められているのは、さまざまな戦争や災害の記憶をいかに後世に継承していくかということです。奇跡的に残っている「戦跡」という悲劇の現場で感じた気持ちを通じて、私たちが生活している地域の視点から、過去の歴史のみならず、きたるべき未来についても考えていきたいと思っています。

貴志俊彦(京都大学東南アジア地域研究研究所)

所属等の情報は、動画撮影時のものです。

もう少し深く知りたい方への文献紹介

  1. 貴志俊彦『アジア太平洋戦争と収容所―重慶政権下の被収容者の証言と国際救済機関の記録から』(アジア環太平洋研究叢書 第4巻)(国際書院、2021年)
    *本書を執筆する動機になったのは、イェール大学所蔵の宣教師文書と、立命館大学国際平和ミュージアム所蔵の個人文書でした。これまでほとんど顧みられることがなかった戦時中国の奥地における日本人、ドイツ人、イタリア人の捕虜生活について、初めてその全貌を明らかにした一書です。

  2. 吉田裕『日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実』(中公新書2465) 、中央公論新社、2017年、
    *この新書は、じつに勉強になりました。これまで戦時期の話は、政府の方策や軍部の動向が話題の中心でしたが、実際に徴集された兵士たちは戦争が生活化するなかで、どのような困難と悲劇に見舞われたかを明らかにしていたからです。上記の拙著『アジア太平洋戦争と収容所』の執筆は、本書から啓発を受けたこともきっかけでした。

  3. 福間良明『「戦跡」の戦後史――せめぎあう遺構とモニュメント』 (岩波現代全書) 、岩波書店、2015年
    *「戦跡」の研究は、まさに戦後史を跡づけることに繋がることを開眼させてくれた一書です。下記の『「知覧」の誕生』と合わせて読むことをおすすめします。
  1. 福間良明・山口誠編『「知覧」の誕生―特攻の記憶はいかに創られてきたのか』(柏書房、2015年)
    *この書籍は、私が世界各地で「戦跡」調査を進めるきっかけになった一冊でした。戦後に語られている戦争の記憶が、いかに戦後的文脈のなかで形成され、変容したのかを論じたもので、たいへんに啓発されました。論文集という形式ながら、たいへん読みやすい一書です。

  2. 戦争遺跡保存全国ネットワーク編『戦争遺跡から学ぶ』 (岩波ジュニア新書)、岩波書店、2003年
    *各地に残る「戦跡」の実状と保存を明らかにした一書です。この本が紹介している「戦跡」は、それが所在している地域住民には有名であっても、全国的に知名度が低いのはなぜだろうと思ったことも、私が「戦跡」フィールドワークを始めたきっかけでした。