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人々は、多くの場合特定の場所に居を構え、近隣とつながりを持ちながら住まいを形成していきます。本動画では、住まいがどのように変遷し、受け継がれるのかという研究テーマに基づき、ニュータウンでのフィールドワークの過程を紹介します。
久しぶりに田舎の実家に帰ると、そこに広がる風景は何も変わらないものでした。上京して一人暮らしを始める前と同じ建物、同じ道、同じ公園。それでも、住んでいる人は着実に高齢化していき、変わらない風景が抜け殻のようになっていることに底知れぬ不安を覚えました。そこから、まちを考える研究というものに興味を持ち始めました。
現在、私が専門とするのは都市・不動産科学であり、定量的なアプローチを通してどのようにまちを俯瞰できるのか分析しています。特に、土地・建物がどのように変遷しているか、住民の社会経済属性や近所付き合いなどが空き家・空き地化とどのように関連しているかなどに興味を持っています。最終的には、そのような分析を通して将来の住まい方を考究し、都市住宅政策へ還元していくことが目的です。
研究対象は、高層マンションの立ち並ぶ都市部であったり、古くからの住宅地が点在するような集落であったり、様々です。なかでも、今回フィールドワークを行ったのは「千里ニュータウン」という大規模ニュータウンのひとつです。ニュータウンは1960年代頃から日本中で着工され、現在、その多くは建物の更新や高齢化などの問題を抱えています。千里ニュータウンはそのような問題に上手く対処し、今でも発展を続けています。では、その源泉とは何なのでしょうか? 今回、住まいの多様性と住民同士のつながりに着目して調査を行いました。 本動画は、私が普段行う調査や分析のほんの一部でしかありませんが、研究対象の本質を見極める非常に大切な場面でもあります。私の研究は統計分析などを通して客観的に議論することが多く、極論をいえばフィールドワーク無しでも分析を完結できるような、ある種の危険性を内包しています。しかし、まちは個性を持ったひとりひとりの人間が集まって成された場であり、その中に飛び込んでいかなければ研究結果の正しさなどわかりません。本動画での体験を通して、千里ニュータウンが持つ魅力や地域研究の面白さを皆様と共有できましたら幸いです。
もう少し深く知りたい方への文献紹介
(1)中島直人・村山顕人・髙見淳史・樋野公宏・寺田徹・廣井悠・瀬田史彦 (著) (2018) 都市計画学: 変化に対応するプランニング, 学芸出版社.
若手トップランナーの先生方によって著された都市計画の教科書です。初学者でもわかりやすく記述されており、都市計画の枠組みを理解できます。
(2)ジェイン・ジェイコブズ 山形浩生 (訳) (2010) アメリカ大都市の死と生 (新版). 鹿島出版会.
都市論の有名な古典です。アメリカの主要都市をつぶさに観察し、人間目線から望ましい都市のあり方を議論しています。
(3)齊藤誠 (編著) (2018) 都市の老い: 人口の高齢化と住宅の老朽化の交錯. 勁草書房.
人口減少、少子高齢化を所与として、これからの都市に対してどのように向き合っていくべきでしょうか。本書はそのような疑問について、綿密な分析を通して明らかにしています。
(4)吹田市立博物館・多摩市文化振興財団 (2018) ニュータウン誕生: 千里&多摩ニュータウンに見る都市計画と人々. パルテノン多摩.
千里ニュータウンに関心のある方はこちらがおすすめ。千里ニュータウンと多摩ニュータウンについて、わかりやすく紹介しています。
(5)馬場弘樹・樋野公宏 (2019) 大規模住宅団地における建物除却後の跡地現況と建物除却計画・将来方針の対応関係 ベルリン市マルツァーン・ヘラーズドルフ団地を対象として. 都市計画論文集, 54(2), 163-170.
拙作ですが、ベルリンの住宅団地の調査結果をまとめています。東西ドイツ統一後の住宅政策により、住宅団地の一部が除却されるのですが、その跡地がどのように利用され、法的枠組みによって統制されていたのかに興味を持って分析していました。